研究成果の例

より具体的な研究内容を知りたい方のために,成果の概要をいくつか紹介します.これら以外の研究も含めた,詳細な業績リストはこちらを御覧ください.

誤り訂正符号の統計力学
スパースな2部グラフによって定義される誤り訂正符号を例として、情報理論や人工知能の研究において1990年代当時注目されていた(loopy)belief propagation(BP)が物理学で知られているBethe 近似およびその発展形であるキャビティ法の求解アルゴリズムとして位置づけられることを示した。加えて、スパースグラフ上の誤り訂正符号を仮想的な磁性体のモデルと見立てることにより、不規則系の統計力学で発展した相転移概念とその解析手法を応用することで、誤り訂正符号の定量的な性能解析が可能になることを具体的に示した。誤り訂正符号とスピングラス模型との類似性については、我々の論文が出版される10年ほど前に他の研究者により指摘されていたが、当時、そうした類似性は表層レベルの対応で留まっており、詳細な性能解析や新規な復号アルゴリズムの開発といった実践的な研究の道具として「使える」とは認知されていなかった。我々の研究を契機として、情報理論の問題と不規則系の統計力学との構造的類似性が広く認識され、統計力学における巨視的な量の解析法⇔システムの性能評価、統計力学における微視的な量の解析法⇔近似的推論アルゴリズム、という対応関係が明確に定まった。

(公表論文)

  • Y. Kabashima and D. Saad, Belief propagation vs. TAP for decoding corrupted messages,  Europhys. Lett. 44, 668-674 (1998)
  • Y. Kabashima, T. Murayama and D. Saad, Typical performance of Gallager-type error-correcting codes, Phys. Rev. Lett. 84, 1355-1358 (2000)
  • Y. Kabashima, T. Murayama and D. Saad, Cryptographical properties of Ising spin systems, Phys. Rev. Lett. 84, 2030-2033 (2000)

BPにもとづくCDMAマルチユーザ検出アルゴリズム
携帯電話や無線LAN の通信方式として知られているCDMA 方式におけるマルチユーザ検出問題が完全2部グラフ上のベイズ推論の問題として定式化できることを示した。その上で、厳密計算では指数関数オーダの計算量が必要となるマルチユーザ検出を、1反復当たりチップ数とユーザ数の積程度の繰り返し計算で実行し、更に、望ましい条件下においては、得られる解が大自由度極限で厳密解に漸近する性質を有する近似的検出アルゴリズムを上述のBP とキャビティ法との関係にもとづいて開発した。このアルゴリズムは、下に述べる圧縮センシングの文脈で、近年、近似的メッセージ伝搬(AMP)と呼ばれるアルゴリズムの原型となっている。さらに、巨視的な振る舞いを記述する状態発展法(state evolution)の提示、BP の安定性とスピングラス理論で知られているレプリカ対称解の安定性との構造的な一致性の指摘など、無線通信研究における個別問題の解決にとどまらず、情報理論、信号処理分野における今日的話題の研究に大きな影響を与えている。

(公表論文)

  • Y. Kabashima, A CDMA multiuser detection algorithm on the basis of belief propagation, J. Phys. A 36, 11111-11121 (2003)

圧縮センシング/スパースモデリングの統計力学
近年、革新的な信号処理の方法として注目されている圧縮センシングに対し、統計力学の方法にもとづいた系統的性能解析法を与えた。同様の性能解析を目的とした方法としては、Candes-Tao らによるRIP 理論、Donoho らによる積分幾何の方法などが知られているが、RIP 理論は数学的に厳密であり適用範囲は広いものの評価値と実験的に観測される振る舞いとの隔たりが大きい、また、積分幾何の方法は数学的に厳密であり精緻な評価が可能であるものの、適用できる対象が単純なモデルシステムに事実上限定される、といった一長一短がある。我々の方法は、数学的厳密性は保証されないものの、精緻でありかつ適用範囲が広い、といった特徴を有する。最近では、圧縮センシングを含むより広い多変量解析/機械学習の枠組みであるスパースモデリングに同様の接近法を拡げている。

(公表論文)

  • Y. Kabashima, T. Wadayama and T. Tanaka, A typical reconstruction limit for compressed sensing based on Lp-norm minimization, J. Stat. Mech. (2009) L09003 (12 pages); Erratum, J. Stat. Mech. (2012) E07001
  • T. Takahashi and Y. Kabashima, A statistical mechanics approach to de-biasing and uncertainty estimation in LASSO for random measurements, Journal of Statistical Mechanics: Theory and Experiment (2018) 073405 (25 pages)
  • T. Obuchi and Y. Kabashima. Semi-Analytic Resampling in Lasso. Journal of Machine Learning Research (2019) Vol. 20. No. 70. pp. 1-33

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